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米中摩擦、日本が貢献を

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 米中貿易摩擦アメリカと中国の突っ張り合いで、いまだに決着への展望がみえない。日本が議長国を務める6月のサミット前後がヤマ場になりそうだが、他のサミット参加国も引っ張り込んで決着への道筋をつけられるのかどうか。相変わらず静観を決め込み実質的にはアメリカの後押し役を演ずるつもりなのか。サミットの場で解決へのきっかけを作り出さないと、世界貿易は混乱に向かいかねないし、日本の存在感はますます希薄になってこよう。6月までに米中はじめサミット参加国やG20の新興国の意見をまとめ、米中が妥協できる道を探し求めることが議長国日本の最大の役割だろう。

 米中の貿易摩擦を巡る5月の9、10日の閣僚級協議は結局物別れに終わった。これまで米中間の関税を巡る制裁合戦は、2018年7月6日にアメリカが半導体、産業用ロボットなどの輸出品に25%の制裁関税(340億ドル相当)をかけたのに対し、中国は直ちに大豆、牛肉などのアメリカからの輸入品に同率25%、同額の340億ドル分の関税をかけ報復した。次いで8月23日にアメリカは光ファイバー、化学品などの輸出品に25%、160億ドル相当分の関税を課すと、中国は同日に石炭、トラックに同様の率、額の対抗措置を取った。さらに米中の話合いがまとまらないため、9月24日にアメリカが第3弾として中国からの日用品、家具、自転車、家電、綿織物、果物の関税を10%から25%へと引き上げると宣言、19年5月10日に2000億ドル相当分を実施した。中国もまた9月24日に液化天然ガス、医療器具、家電、コピー機、食品、化粧品などに600億ドル分相当の報復を行なうとしていた。

 今回の閣僚級会議が物別れに終わったため、トランプ大統領は第4弾として第3弾で10%課税した中国製品への関税を25%に引き上げ、中国政府も対抗した。

 アメリカと中国はGDPで世界1、2位の大国同士だ。両国の貿易戦争が長引けば、世界貿易全体にも影響が出てくることは必至で、早急な解決が望まれる。このままの状況が続き悪化すれば、両国の製品物価は上昇し、一般消費者に迷惑がかかる上、為替市場なども不安定になろう。

 中国は外国から資本や技術を導入して輸出主導型で成長してきた。輸出全体に占めるアメリカの割合は2割近くになるだけに影響も大きいとみられる。アメリカは中国の政府補助金など産業政策も問題視しているが、60‐80年代の日米貿易摩擦の中心課題も、実は日本側の大幅黒字と政府補助金などの産業政策だった。現在の米中摩擦は、かつての日米摩擦と似ているのだ。サミット主催国というだけでなく、日米摩擦の経験から鑑みて米中摩擦へのアドバイスも考えられよう。日本はサミット議長国という立場も活用して世界経済、世界貿易にもっと積極的に立ち入り世界の安定に役立つ努力をすべきだろう。米中間の貿易戦争と安易に見ていると中国に進出している日本企業にも影響が出てこよう。

 今のトランプ政権には、世界かつてアメリカが唱えていた自由貿易、公正貿易などを主導して世界を引っ張ろうという意思などは全くなさそうだ、アメリカ第一主義で景気を回復させ、次の大統領選挙に勝利するという思惑しかみえない。そんな時にサミット議長団が巡ってきた日本の宿命をどう捉えるか。もう少しトランプに物申してもよいのではないか。
【電気新聞 2019年6月27日】

※本コラムは大阪サミット開催前に送付したものです。
 また、嶌はサミット取材を通して記した「首脳外交―先進国サミットの裏面史」にはシェルパの役割などサミット前の準備等の舞台裏に触れた本を以前上梓しておりますので、ご興味をお持ちの方は合わせて参照下さい。

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