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米中貿易戦争に治まる気配なし ―中国は国家政策だと突っぱねる― 

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 アメリカと中国の貿易戦争はますます拡大し激しさを増している。アメリカの中国への追加制裁関税は、2018年7月の第一弾(関税を10%から最大25%に引き上げ)に始まってから今年5月および6月には第4弾にまで拡大した。対象となった品目は半導体、化学素材に始まりパソコン、おもちゃ、陶器、携帯電話、衣類、スポーツ用品などあらゆる品目に及び、金額にして約2500億ドルに達している。
 
 これに対して中国もアメリカに最大25%の報復関税を課し、大豆、電気自動車、バイク、衣類、運搬ロボットなどを対象とし、その額は約1100億ドルに及ぶとされる。この関税報復合戦は中国やアメリカの商品の値上がりにつながるほか世界経済にも影響し、株価や為替の不安定化をもたらしている。

アメリカは外国企業にも輸出入阻止を呼びかけ
 こうした米中貿易戦争の中で浮かびあがっている特色は、アメリカが中国の通信機器世界大手ファーウェイ(華為技術)社に大きな焦点をあてていることだろう。アメリカ政府はファーウェイに対し、アメリカ製ハイテク部品などの禁輸措置を発表した。企業がファーウェイに製品や技術を輸出する場合は商務省の許可が必要となり、原則却下されることになっているのだ。

 また、日本を含む外国企業がアメリカ製品をファーウェイに輸出する場合にも適用するとしている。いわばトランプ政権はファーウェイを完全に締め出し、経営危機に追い込もうとしているわけだ。これに対しファーウェイは「アメリカ企業や消費者の利益を損なうこととなり、アメリカにおける次世代通信規格5Gの建設も遅れることになろう」と非難している。

 トランプ大統領は「ファーウェイはアメリカの安全保障の上で脅威がある」と言い、通信機器の弱味につけ込んで「アメリカに対し産業スパイ行為などのサイバー行為を仕掛けている」として国家非常事態を宣言し、「国際緊急経済権限法」に基づいて詳細なルールを策定している。既にアメリカは2018年8月に政府機関によるファーウェイ製品などの調達を禁じ、今後は民間企業にも広げようとしているわけだ。

■日本は追随、EUは判断見送り
 こうしたトランプ政権の方針に対しオーストラリア、ニュージーランドは事実上の排除を決定しており、日本もこれに追随している。イギリス、カナダは態度を保留中でEU各国は判断を加盟国に委ねる決定を下している。アメリカ商務省はアメリカの制裁対象となっているイランとの違法な金融取引を理由にファーウェイは起訴されており、「アメリカの安全保障や外交政策の利益に反する活動に関わっている」とも結論づけていた。アメリカの安全保障上の理由からファーウェイとの取引を禁じる攻勢に出たのだ。

■ファーウェイは人民解放軍の同士が創業
 社長の任正非氏は1983年、39歳の時に人民解放軍を退役。石油企業で働いた後、1987年に6人の仲間とファーウェイを創業した。当初は電話交換機の輸入販売を手がけていたが、中国政府から相当額の支援を受け、91年には、自前でデジタル交換機の開発に着手し、研究開発部門に集中的に投資を行ない93年までに新型の交換機を完成させたという。

 90年代前半のファーウェイの研究開発部門には500人以上のスタッフがいて自前の新型交換機を作りあげており、移動通信網の第4世代(4G)の構築にも乗り出していた。その結果、移動通信網の構築では当時世界有数のエリクソンスウェーデン)、ノキアフィンランド)と並ぶ技術、実力を身につけ、2009年にはノルウェーからノルウェー全体の移動通信網全体の構築を任され、以来世界から品質でも価格でも信頼される世界大手の通信企業と認められるようになる。しかも今や次世代5Gの開発でも先頭を走っている有力企業とみられているのだ。

■ファーウェイのシェアは世界1~2位
 現在、ファーウェイは世界の通信機市場で29%のシェアを持ち、アジア太平洋では43%、中南米では34%を占拠しているという。また、スマホ製造会社としても韓国のサムスンに次いで世界第2位にまでのし上がった。現在世界で5Gのネットワークを構築する契約を約40件も締結しているといわれ、5Gの標準必須特許の保有件数では1500件を超え、ノキアサムスン、LGを超え世界一と見られている。ちなみにアメリカの差し金により、カナダで逮捕された美人の孟晩舟女史はファーウェイの副会長である。ファーウェイの事業収入は2010年代に入ってからずっと右肩上がりで伸びており2018年の全売上高は7210億人民元(約1074億米ドル、約12兆円)で前年比19.5%増だ。

アメリカは安保上の技術に懸念
 アメリカが特にファーウェイを標的にするのは、世界の約90社から部品供給を受け、先進的な通信技術で世界のトップを争うまでに成長し、ファーウェイの供給した部品からアメリカなどの安全保障に関わる情報、技術が盗まれると危惧しているからだ。

 通信の先端技術5Gは、今後あらゆる産業に波及し、新たな産業革命を起こす可能性があるといわれている。トランプ大統領は、「中国は先端通信技術に多額の国家援助を与えているのは不公正貿易だ」と非難しているが、中国側は「中国の正当な政策であり構造問題だ」と突っぱねている。かつての日米摩擦の折も日本政府の企業支援に批判をし、結局日本は縮小し取りやめていったが、中国は「構造問題に注文をつけるのは内政干渉だ」と今後も支援し続けていく姿勢を示している。

 米中の貿易戦争は当分収まる気配はなく、今後の焦点は中国の国民や日本の企業、消費者が貿易戦争で製品価格が上がるのを、どこまで黙っているかにかかっていよう。
TSR情報 2019年6月24日】 

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