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ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

波乱高まるアジア貿易 ―日・韓・米・中― 

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■韓国をホワイト国からはずす
 アジアの貿易が波乱の様相をみせてきた。第一は、韓国の元徴用工を巡る訴訟で、韓国最高裁が日本企業に賠償を命ずる判決(2018年10月末)を出した。また、日本が今年になって韓国をホワイト国からはずす政令改正を決めたことだ。日本はこれまで武器転用できる製品や技術の輸出先に、安全保障上の問題がない国として世界で27カ国をホワイト国として認めていた。ホワイト国と認定されれば、最大3年間まとめて輸出許可が取れるなどの優遇措置があり、韓国にもこれまでホワイト国の待遇を与えていた。

 しかし日本政府は今年7月、韓国をホワイト国からはずし、輸出の個別案件ごとに政府の許可が必要になるように変えたのだ。一度ホワイト国に指定されていた国をはずしたのは今回が初めてのケースだった。

 日本側は理由として「あくまでも韓国の輸出管理や運用が不十分だったので見直したまでだ」と説明した。世耕弘成経済産業相は「韓国を他のアジア地域と同じ扱いに戻しただけで、手続きや管理をしっかりやれば、これまで通り日本に輸出入できる」と強調している。

■韓国は猛反発
 日本は韓国をホワイト国から除外したことで、7月4日に韓国向け輸出規制強化の第一弾として半導体関連3品目を包括許可の対象からはずし、輸出契約1件ごとに政府の許可が必要となるようにした。韓国側からすれば手続きが煩雑になり、貿易が滞る可能性が出てくるわけだ。さらにホワイト国からはずれると武器転用の可能性のある化学物質、炭素繊維などの先端素材や工作機械なども個別許可が必要となる。さらにその他の資材でも輸出先用途に武器転用の懸念があると判断した場合には輸出の許可を取るよう求めることができる。ホワイト国からはずされると貿易上の規制が増え、極めて厄介になるのだ。

 当然ながら韓国は猛反発した。韓国の最高裁判決に対する日本の報復措置とみたからだ。今回の措置は日本が戦前に韓国人を日本の鉱山などで働かせた元徴用工に対し、韓国最高裁判所が損害賠償を求める判決を出したことへの報復・対抗措置ではないかとみたのである。しかも7月に第一弾の規制を実施してから8月に第二弾、さらに第三弾も行なうとしているため、韓国では日本製品不買運動が広がり、タクシーや地下鉄には「日本に行かない、買わない」と訴えるステッカーが目立っている。また、韓国は韓国戦艦が自衛隊機へのレーダー照射事件を起こしたり、日韓の軍事技術や戦術データなどの防衛情報を共有することを定めたGSOMIA(日韓秘密軍事情報保護協定)の破棄を決定した。

■徴用工問題への意趣返しか
 日本の韓国向け輸出額は2018年の場合、約5兆8000億円で半導体等の製造装置(6300億円)や鉄鋼(4500億円)などが多く、このうち個別許可が必要になる品目は金額で97%程度にあたるのではないかとみられている。日本側にとっては影響は軽微だとみているが、韓国側では個別許可が不要だった約900品目について許可を得る必要が出てくるかもしれないので貿易が滞る心配があるわけだ。ともあれ日韓の貿易問題で混乱が出てくることは、元々日韓関係はギクシャクしがちだっただけに両国にとってはまた厄介なタネが増えたことになる。このため、アメリカが日韓の仲介をはかる動きに出ているが、具体的解決策はみえておらず当分紛争が続きそうだ。韓国の文在寅大統領は日本のホワイト国除外措置に「盗っ人たけだけしい」と非難。日本の安倍首相は、「1965年の日韓請求権協定で解決済みのはずで今になって国と国の約束を守れないのは遺憾だ」と批判し、今のところ歩み寄る気配はなく、アメリカも手をこまねいている状況だ。ただ、文大統領は2~3日後、言い過ぎたとみたのか「話合いに応ずる」と軟化したが、具体的な解決方法はまだみえていない。

■米・中間も関税上乗せで対立
 アジアの貿易でさらに厄介なのはアメリカと中国の貿易戦争だ。18年7月から始まった貿易戦争は、今年9月までに和解しないと第4弾に突入してしまう。第3弾までにすでにアメリカは中国からの輸入額約2500億ドルに25%の追加関税をかけ、これに対抗して中国は約1000億ドル分の輸入品に関税10%を25%に拡大するとしている。今年6月末に米・中は一時休戦で和解したかにみえたが、わずか1ヵ月で崩壊してしまった。しかも第4弾の関税対象額は第1~第3弾までの計2500億ドルを大きく上回り中国からの輸入品3000億ドル(約32兆円)分に10%の関税を上乗せするというもので、中国からの輸入品のほぼすべてが対象になるといわれる。当然、中国も報復を言明しており、この中国の発言に世界の金融・株式市場まで動揺している。中国はこのところ景気の悪化が続いており、米中貿易戦争はさらに不況を深刻化させる懸念もあるのだ。

 しかも、世界の景気は徐々にピークを過ぎつつあり、アメリカは10年半ぶりに金利引き下げを実施したほどだ。一方、日米も日本の自動車と農業分野などで市場開放や関税撤廃の交渉が続いており、アジアの貿易はあちこちで火が吹いている状況といえる。どこも財政的な余裕もないため、世界で貿易が停滞すると深刻な世界不況がくることも心配されている。
TSR情報 2019年8月26日】

画像は外務省「第9回日中韓外相会議」より