コロナ対策とGoTo推進で混乱
※本稿は12月初旬に入稿しています。
政府のコロナウイルス対策は、国民に信頼されていないのではないか。いま政府が国民に伝えるべきことは、「人命が第一」を徹底し、急速な感染拡大を抑止することに尽きるはずだ。コロナ対策と経済回復を両立させたいとする政府の中途半端な方針がコロナ禍を日本全体に拡大させ、国民を一層不安に陥らせている。
日本のコロナ感染は11月下旬に事実上の第三波入りし、感染者が12月初めで約15万千人、死者が2,109人に達した。各地で緊急事態宣言後より感染者、重症者が増えている。菅政権は、遂にGoToトラベルの利用を控えるよう呼びかけるはめとなった。
有識者の感染症対策分科会の尾身茂会長は「個人の努力だけに頼る段階は過ぎた。飲食店の営業時間の短縮、感染拡大地域とそうでない地域との人々の移動を控えることなどが極めて重要だ」と政府・自治体の対策強化を訴えている。これに対し首相官邸幹部は「東京の医療体制はまだ逼迫していない」とし、コロナ担当の西村康稔・経済再生担当相は、「今後の感染状況の推移についてどうなるかは神のみぞ知る」と発言し、ふざけているのかと批判された。慌てて、「データ分析を急いでいる」と弁明するなど、政府の方針が依然揺らいでいる実態をのぞかせている。背景には「地域経済を支える中で極めて有力なのがGoTo」と語る菅首相の経済優先論があるようだ。
年初は、長くても一年ぐらいで治まるだろうと考えていた日本人も、欧米で一日10万人単位で感染者が出る現実と、ウイルスの恐ろしい歴史を知るにつけ、本気で警戒し始めてきた。GoToキャンペーンを都道府県で中断するところが目立ってきたのはその証左だろう。最近は年末年始に故郷へ帰るにも気を使う人が増えている。一度でもパンデミック(感染症大流行)を引き起こしてしまうと、その地域の再生には長い時間がかかるとみているために違いない。
コロナ対策の司令塔がない点も事態を長引かせている。本来は政府が全体を管理して自治体が互いに協力し合うように仕向けるべきだろう。さらに国としては、OBなどを動員した医療、介護体制の確保、保健所の支援、検査体制の拡充強化、コロナ交付金の使途監視等々を早急に実施し、中・長期的には医薬品開発に向けた国内医療研究の支援や海外との連携強化などを国民に見える形で示して安心させることだ。
菅政権は経済の再生・復活の方に力を入れている印象が強く、対策は少しずつバラバラに出てくるため、国民にはわかりにくい。もう一度“人命第一”の原則に立ち返り、GoToの優遇策はコロナが一段落したら再度行うという確約をしたら納得されるだろう。
【財界 2021年1月13日号 第533回】
■参考情報
・GoToトラベルは12月28日から全国で一斉に停止しています。
・GoToトラベル 段階的再開で調整 当面「県内旅行」対象案 フジテレビ 2021年2月25日
政府が、GoToトラベルの段階的再開に向けた調整に入った。菅首相は24日夕方、緊急事態宣言の扱いについて、関係閣僚と協議。政府は26日、諮問委員会と対策本部を開き、大阪など6府県の宣言を月末をめどに解除することを決定する方針。
https://www.fnn.jp/articles/-/148466