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穏やかだった仏教徒の国 軍政に抵抗するミャンマー市民

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 2月1日のミャンマー国軍によるクーデターに対する市民の抵抗が続いている。最大都市ヤンゴンだけでなく、各地で抗議デモが発生。すでに150人以上が治安部隊の発砲などで死亡した。若者たちは、外出禁止令が出ている夜間にも街頭に出て犠牲者を追悼しているという。

 デモでは民族衣装のロンジーを旗のように振ったり、ミンアウンフライン最高司令官の顔写真を道路に敷き詰め治安部隊に踏み絵を迫る戦術まで出ているようだ。権力を握った国軍側は、政権を握っていたアウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)を弾圧。幹部を次々に拘束し、批判的なメディアへの検閲を始めている。またスーチー氏が実質的な国家代表となっていた国家顧問の役職などを廃止し、軍政権側が新たに外相などの閣僚を任命している。

 ミャンマーは1948年にイギリスから独立したが、62年のクーデターで軍が政治を支配し始めた。88年の大規模な民主化運動が起きた時、建国の父といわれたアウンサン将軍の長女スーチー氏がNLDを結成して「この運動は第二の独立闘争だ」と演説し、民主化闘争の先頭に立った。スーチー氏はイギリスで教育を受け、弁も立ち国民の熱狂的支持を得たため、影響力を恐れた軍部は89年から約15年間にわたり拘束と自宅軟禁を続けた。しかし、その間もスーチー氏は民主化運動のシンボルとして先頭に立ち、91年にはノーベル平和賞を受賞している。2010年に3度目の自宅軟禁から解放され、その後2度の総選挙でNLDが勝利したため再び軍部は民主化運動の弾圧に乗り出していた。

 ミャンマーは度重なる政争で、東南アジアの中でも最も遅れた国となっていった。しかし、人口約5400万人、東南アジアで二番目に広い国土面積を持ち、豊かな鉱物資源と農業で知られ、仏教国として穏やかな民族の国だった。ただ、中国とインドに挟まれ、中国の〝一帯一路〟構想と近年アメリカ、オーストラリア、インド、日本が進めようとしている「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」が交わる要衝の地域となり、大国の関心の的となってきた。

 アメリカはミャンマー国軍の出方によっては制裁措置をとると表明しているが、ASEAN各国は内政問題として積極的な関りを避けている。国軍とNLD双方につながりを持っているのは中国と日本で、特に日本は先進国では最大の援助国だ。第二次大戦中は、植民地にしていたが、今や400以上の日本企業が進出し、重要な貿易相手国となっている。今後、日本はアメリカ、中国、インド、ASEANなどの動乱の目となってきたミャンマーの軍政側と市民側のどちらに寄り添うかその外交が問われている。
【2021年4月21日号、第540回 財界】

■補足情報
スー・チー氏のNLD、近く解党の恐れ=国連ミャンマー特使  2021年8月11日 ロイター 
 国連でミャンマーを担当するブルゲナー事務総長特使は10日、2月のクーデターで実権を握ったミャンマー国軍の指導部が権限を強化する決意を固めている様子がうかがえ、アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)は近く解党となる恐れがあると述べた。
 https://jp.reuters.com/article/myanmar-politics-un-idJPKBN2FC0MR

・中国、ミャンマーの開発事業に資金供与へ 軍政下で協力再開  2021年8月11日 ロイター 
 ミャンマー外務省は、国内の21の開発事業向けに中国から600万ドル超の資金供与を受ける見通しであることを明らかにした。
 https://jp.reuters.com/article/myanmar-politics-china-idJPKBN2FC0IZ

・茂木氏、ブルネイ外相に「最大限支援」 ミャンマーでの特使活動 2021年8月12日 毎日新聞
 茂木敏充外相は12日、東南アジア諸国連合ASEAN)議長国を務めるブルネイのエルワン第2外相と約30分間電話で協議した。エルワン氏は、国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーASEANが派遣する特使に任命されており、茂木氏は「日本として(特使の活動を)最大限支援していく」と伝え、両外相は緊密に連携する方針で一致した。
 https://mainichi.jp/articles/20210812/k00/00m/030/134000c

・サッカー ミャンマー代表選手の難民認定を決定 2021年8月12日 NHK
 サッカーのミャンマー代表として来日し、軍への抗議の意思を示したあと日本で難民認定を申請している選手について、出入国在留管理庁が、帰国すれば迫害を受けるおそれがあるとして、難民と認める決定をした。
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210812/k10013197251000.html

画像:wikimedia commons アウンサンスーチー氏が幼少期に撮影したご一家の写真

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