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香港問題は新冷戦につながるか

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 アメリカで2019年11月末に「香港人権・民主主義法」が成立した。アメリカで中国の香港に関する法案が成立するとは異例なことで、中国側は「内政に対する重大な干渉で露骨な覇権行為だ」と強く反発し報復措置をとると宣言した。米中貿易戦争に加えて香港のあり方を巡ってまで対立し始めたわけで〝米中新冷戦〟は新たな段階に入ろうとしている。

 香港人権法の成立によってアメリカは今後、香港への経済優遇措置の前提となっている中国の「一国二制度」の検証を行なう。高度な自治が実施されていないと判断すれば香港に与えている関税やビザ発給の優遇措置を見直し、香港で人権侵害を行なった当事者に制裁を科すなどの内容が盛られている。

 イギリスの植民地だった香港が中国に返還された1997年、中国では社会主義の適用とは別に「一国二制度」を実施し、それまでの香港の高度な自治制度は50年間変えないと世界に約束した。このため社会主義制度下の中国にあっても、香港は自由と民主主義的な社会が維持されるという特殊な状況下におかれていた。

 ところが習近平政権が登場してから香港の行政長官の選挙制度改革や愛国教育の導入などによって一気に中国化しようとした。中でも香港の犯罪者を中国本土に連行し裁判を行なうという「逃亡犯条例」を制定しようとしたため、学生ら香港人がデモに立ち上がり、その数は史上最大の100万人以上に達した。このため香港警察がガス銃を使用するなどデモ隊と激しく衝突、民主派のデモ参加者に死者と多数の負傷者を出している。

 抗議運動はすでに半年以上に及び、この秋には林鄭月娥行政長官が逃亡犯条例の撤回を約束した。しかし、未だにデモが収まる気配はなく、背後で中国本土から徹底的に取り締まれとの指示があり、むしろ増える傾向にある。他方で香港の富豪たちは、預金などをアメリカや中国から他国へ移動させているほか、企業も香港から立ち去る動きをみせているという。

 香港は返還時からイギリスとの約束などで1949年の革命後もずっと特殊な位置におかれ、中国の西側への窓口となり、アジアの金融センターとしても発展してきた。香港人はこのことを誇りとしてきたが、最近の習近平政権の一連の強権政治でその地位が風前の灯になってきたのである。ただ、アメリカが人権法を成立させるなど香港暴動が国際問題となってきたため、中国政府が妥協的な動きを見せる可能性も出てきた。一方で米国も国際的批判を浴び妥協点を探っている。天安門事件を力ずくで抑え込んだ中国が新冷戦の事態にどう対処してゆくか、日本にとっても目が離せない。
【財界 2020年1月29日 第510回】

※参考情報
 ・中国、香港出先機関のトップを交代 抗議活動めぐり更迭か(時事通信
  中国政府は4日、香港駐在の出先機関、香港連絡弁公室トップの王志民主任(62)を交代させ、後任に駱恵寧・元山西省党委員会書記(65)を起用する人事を発表。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020013000968&g=int 

 ・香港、10年ぶりマイナス成長 デモ響き19年1.2%減(2/3、日経)
  香港政府は3日、2019年の実質域内総生産(GDP)速報値が前年比1.2%減少したと発表した。通年のマイナス成長はリーマン・ショック後の09年以来10年ぶり。米中貿易摩擦や昨年6月に始まった大規模デモが直撃した。新型肺炎の感染拡大によって消費が低迷するとの見方が多く、20年も厳しい経済環境が続く。  

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55187650T00C20A2FF8000/ 

 

画像:wikimedia commons

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