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「国権は人権より重い」 習近平氏の強権強国路線

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「国権は人権より重い」──最近公開された外交文書の中で、中国の最高責任者だった故・鄧小平氏が1989年の天安門事件後に語った言葉だ。最近の習近平政権の国家的権力主義思想は、鄧小平氏以来の中国の伝統的政治手法をさらに強化しているようにみえる。今後も欧米的価値観とは相入れず独自路線で走るのか。

 1989年の天安門事件は、当時の学生たちが民主化を求め全国的な大デモを行なったことに対し、共産党政権が武力弾圧によって抑え込んだ政治的事件だった。5カ月後の11月、鄧小平氏は日本経済界の訪中団に対し、この天安門事件について語った内容が今回の外交文書で明らかになった。

 外交文書によると、鄧氏は「人権が重いか、国権が重いかといえば、国権は国家の独立、主権、尊厳に関わるもので全てを圧倒する」と語っていたという。中国の民主化への動きについては、胡耀邦政権時代に進展した時期もあったが、概して人権尊重や自由主義、民主主義などを受け入れることは少なかった。

 特に最近の習近平政権は、民主化思想を厳しく取り締まり、知識階級、学生らへの弾圧を強め言論統制も激しさを増している。中でもこれまで認めてきた香港統治下の〝一国二制度〟を否定し、47年末まで認めるとイギリスと約束してきた香港の高度な自治言論の自由などを一挙に取り締まり、多くの知識人や学生などを相次いで逮捕し裁判にかけている。昨年6月30日の中国、全国人民代表大会で香港の反体制活動を取り締まる「香港国家安全維持法(国安法)」を可決し、「国家の分裂」「外国勢力などと結託して国家の安全を脅かす」など四種の行為を禁ずる法律を施行したためだ。この法律施行後、香港紙「アップルデイリー」創業者の黎智英氏や民主活動家の周庭女史、民主派前議員ら約50人が逮捕されている。

 習近平政権が、強権力を用いて急速に統制強化に走っているのは、習近平思想を毛沢東思想やマルクス主義などと並ぶ特別な「中国の特色ある社会主義思想」として位置づけようとしているためとみられる。具体的には35年までに経済力や科学技術を向上させ、21世紀半ばまでに米軍と並ぶ世界一流の軍隊を建設、建国100年の49年までに「社会主義現代化強国」を作り上げると宣言しているのだ。このため全人代国家主席の任期を撤廃する憲法改正を採択。習思想を清華大など全国37の名門大学で必修化し、習氏を毛沢東以来となる「人民の領袖」と呼ぶようになった。習近平氏は建国の父とされる毛沢東氏と並ぶ〝新社会主義〟の象徴であり、現代中国の傑出したリーダーとして位置づけられてきたのである。
【財界 2021年2月10日号 第535回】

■参考情報
ウイグル巡る中国制裁、踏み絵迫られる日本-菅首相は4月に訪米 3月29日 Bloomberg
新疆ウイグル自治区の人権問題を理由に米国や欧州連合EU)が制裁措置へ踏み切る中、経済への影響が懸念される日本は慎重な姿勢を崩していない。菅義偉首相の訪米を4月上旬に控え、決断を迫られる時期は遠くないとの指摘もある。
 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-03-28/QQGS5HT0AFB601

・香港、文化・芸術も締め付け 親中派が展示品の撤去要求 3月29日 日経新聞有料会員限定
 香港の政治的な締め付けが芸術分野にも及んできた。2021年末に開館する現代美術館「M+」の展示品をめぐり、親中派が香港国家安全維持法に抵触すると批判。デモに関する写真展や映画の上映中止も相次いでいる。金融大手UBSによると、20年の美術品オークション市場で中華圏は米国を抜いて世界最大。
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM224D60S1A320C2000000/

 

画像:香港コンベンション&エキシビションセンター(ビクトリア・ハーバー)のフリー素材 ぱくたそ すしぱくさん

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